王立ゴブラン工場の美術監督シャルル・ルブランは、国王ルイ14世の栄光を讃え、その豊かな財産を誇示することを目的に、12カ月をテーマとする綴織壁掛の連作をデザインしたが、本作品はその中の「9月」（天秤座）を表わす。この連作は、「1月」と「2月」がルーヴル宮と王宮でオペラとバレエを楽しむルイ14世の姿が描かれているほかは、「3月」から「12月」まではフランス各地の王家の城や宮殿を背景に、猟や散歩に興じる王侯貴族をモティーフとしている。前景にはどの月も左右に2本づつの円柱を配し、手擦りには人物やさまざまな動物の姿が描かれている。この「9月」に遠望されるのはフランソワ一世によって建てられた名城シャンボールであり、その前には華やかな馬車行列が続く。 ルイ14世治下の1662年に宰相コルベールによって設立された王立ゴブラン工場は、今日に至るまで長い伝統を誇っているが、豪華な装飾性を示すこの壁掛は、同工場の技術が最高度に達した時期の制作で、絵画的にも工芸技術的にも当時の水準を示す貴重な作品である。 なお、この12カ月の連作には同じ構図とモティーフを使いながら横幅を短くした連作があり、1668年から1711年の間に両シリーズ合わせて87枚がゴブラン工場で織られた。（出典: 国立西洋美術館名作選. 東京, 国立西洋美術館, 1989. cat. no. 37）