2つの世界大戦にはさまれた1920年代から30年代を中心に、北アフリカにおけるフランスの植民地政策を背景として「アルジェ派」と呼ばれる一群の画家たちが生まれる。アルジェに設立された給費生のための宿泊施設ヴィラ・アブド=エル=ティフに滞在したフランス人芸術家たちを中心として形成され、1920年代には総督府の公共建築物の装飾などを一手に引き受けるようになる。(1) アンドレ・シュレダ （ヴェルサイユ 1872-ヴェルサイユ 1930）はその代表的な画家の1人とされている。(2) シュレダの作品は明確な輪郭と明るい色彩、平面性を特徴とし、従来のオリエンタリスム絵画に装飾的感覚を取り入れた。パリの国立美術学校を出て1894年からフランス芸術家協会のサロンに出品し始めるが、1910年以降は毎年のようにアルジェに滞在しながら、ユダヤ人コミュニティーやイスラム社会の宗教的・民族的習俗や生活を題材とする作品群を制作し、パリのさまざまな展覧会に出品して高い評価を受けた。版画家としても知られ、ギィ・ド・モーパッサンやルイ・ベルトランらの小説に挿絵を提供している。本作品では、額に手をかざし片膝をついて座る女性の姿が鉛筆でスケッチされ、部分的な彩色がほどこされている。先のとがった帽子は画家がしばしば描いたアルジェリアのトレムセンの女性を描いた作品などに見られる。また画面左下には「松方氏へ。シュレダ」と記されており、作品が直接、松方へ贈られたことを示している。シュレダは1900年からフランス・オリエンタリスト協会のサロンにも出品している。これを率い、アルジェにもしばしば滞在していたレオンス・ベネディットは松方の重要な助言者でもあり、その紹介で両者が知り合った可能性が高いだろう。 (1) Roger Benjamin, Orientalist Aesthetics. Art, colonialism, and French North Africa 1880-1930, Berkley, University of California Press, 2003, pp. 143-157. (2) シュレダについてはBenjamin, op. cit. のほか、以下を参照。cat. exp., Centenaire d'André Suréda, Autun, Musée Rolin, 1972; cat.exp., Orientalism. Delacroix to Klee, ed. Roger Benjamin, The Art Gallery of New South Wales, 1997, pp. 23-24; Marion Vidal-Bué, Alger et ses peintres 1830-1960, Paris, Méditéranée, 2000, pp. 165, 223, 281.（出典: 開館50周年記念　所蔵水彩・素描──松方コレクションとその後. 東京, 国立西洋美術館, 2010. cat. no. 30、一部文言修正）